SF作家マーティン!:「ナイトフライヤー」 ジョージ・R・R・マーティン

 

 

本書は、叙事詩ファンタジー大作の「氷と炎の歌」シリーズの成功で当代一の人気作家となったジョージ・R・R・マーティンが、SF作家として登場して間もない1970年代に書いた中短編を収録している。表題作の「ナイトフライヤー」は、「氷と炎の歌」テレビ化の成功を受けて最近テレビシリーズになっている。これも面白く読めたが、本書で最も強い印象を残したのは最後尾に収められている「この歌を、ライアに」である。

身もふたもない過酷な現実が登場人物たちに次から次へと襲いかかる「氷と炎の歌」で知られるあのマーティンが、若い頃は、SFの本流中の本流といえる直球テーマを扱い、理想を熱く追及する作品を書いていたとは、とにかく驚いた。当時のアメリカSF界でもこれからのSFを担う期待の新星として高く評価され、本作はヒューゴー賞を受賞している。

一読して、アイザック・アシモフ「永遠の終わり」、アーサー・C・クラーク「都市と星」、小松左京「神への長い道」、ブルース・スターリング「巣」、デイビッド・ブリン「ファウンデーションの勝利」、グレッグ・イーガン「ワンの絨毯」といった、自分が好む一連の系譜を想い浮かべた。SFファンとして嬉しくなるのが、マーティン本人が、本作を(2003年の時点で)「全作品を通じて、自分の最高傑作」(本書、p567)と言い切っていることだ。

本作において、知性とは何か、より良い生とは何か、人類とその文明の未来はどうなるのか、といった問いにマーティンは正面から挑んでいる。本作でマーティンが与えた回答(というか)考え方は、きわめてオープンエンドなもので、本作執筆後40年以上に及ぶ多方面での大活躍を予感させる。ここでマーティンが示しているのは、一見して思うような、宗教に頼るか、そうしないか、という問題の立て方とも違う(プロテスタントにみられるように、宗教はある種の個人主義も生み出す)、広い視野をもったビジョンなのである。