ホモ・サピエンスの大拡散:「サピエンス日本上陸」海部陽介

 

サピエンス日本上陸 3万年前の大航海

サピエンス日本上陸 3万年前の大航海

  • 作者:海部 陽介
  • 発売日: 2020/02/13
  • メディア: 単行本
 

文明開始以降の世界史は、交通・通信の発達とともに現代の「世界の一体化」に至る過程

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として描かれているが、文明開始以前の人類史は、30-10万年前にアフリカに出現した現生人類(ホモ・サピエンス)が世界中に大拡散していく過程である。大拡散にはいくつかの画期があり、3-4万年前はホモ・サピエンスが船を発明して海に大進出する時期と考えられている。

日本列島はそれまで無人であり、遺跡調査の結果、3-4万年前の間にユーラシア大陸からホモ・サピエンスが移り住んできたことがわかっている。本書の著者は、想定されている移住ルートのうち、台湾から南西諸島へのルートに注目した。日本列島は、この頃大陸と陸続きになっていたということはなく、どのルートであっても船で海を渡らなければならなかったと考えられている。この点で最も興味深いのは台湾からのルートで、黒潮という世界有数の大海流が間にあり、これを横切って南西諸島に行き着くには想像を絶する困難があるからである。

本書では、黒潮横断を当時の技術水準で実現できるかどうか確かめたいと思った著者が、クラウドファンディングで資金を集め、2019年7月についに台湾から与那国島への丸木舟航海を実現するに至るまでの経緯が臨場感をもって描かれている。

本書で最も印象的な部分は、最初の「クロマニョン人への嫉妬」から出発し、黒潮横断の実験を経て最後に著者が行きついた、ホモ・サピエンスという生物種がもつ特徴についての考察である。それは「やらなくてもよいことに挑戦する不思議な特質」(本書、p321)であり、「自身が属すテリトリーや生態系を越えて限界知らずに広がっていくところ」(p321)である。

 「大拡散」でいったん世界の各所にばらばらに移り住んだホモ・サピエンスは、いま「世界の一体化」の時代のただ中にある。将来、「世界の一体化」がどうなっていくのか、ホモ・サピエンスの未来がどうなるのかについて考えるにあたり、本書は重要な視点を与えてくれる。