安倍政権が2012年12月に発足して7年が過ぎたが、発足当初の目標に掲げていたデフレ脱却、年率2%の物価安定目標はいまだに達成できていない。もちろん、安倍政権の最大の成果と言える金融緩和によって、コロナショック前までの雇用の改善は著しいものであり、これこそ安倍政権を7年にわたって続けさせてきた最大の要因である。ただし、本書が言うように、二度の消費増税に代表される緊縮財政によって「インフレマインドを破壊」してしまい、デフレ脱却を完遂するに至ってはいない。
本書では、この状況の最大の原因を、安倍政権が陥った現状維持の政治構造であると捉える。金融緩和を続けている限り、雇用状況の改善など、国政選挙に勝ち続けるための最低限の経済の安定が得られる。一方で、財務省や内閣法制局等に代表される強力な官僚機構の意向には逆らわない。連立与党を組み、選挙の際に強力な組織力を提供する公明党の意向にも逆らわない。こうして憲政史上最長の長期安定政権が維持されてしまう。
この閉塞状況を打破する方策として本書は、現実的な「綱領」、強力な「組織」、組織を代表する「議員」をもった「近代政党」を樹立すべきだと訴える。現在の自由民主党は「国民政党」ではあっても「近代政党」ではなく、個々の圧力団体の個別利益を代表する議員の集団に過ぎない。「近代政党」たる資格を有するのは公明党や共産党であるが、国民的な拡がりをもちうる「綱領」の普遍性に欠けている。「国民政党」たる「近代政党」の実現に向けて、本書は政策を論ずる「シンクタンク」を作るべきだとさらに訴え、実際に著者はそのための活動を続けている。
現状はまったく閉塞状況にあり何も状況は動かないようにみえるが、そう悲観することもあるまいと本書は言う。例えば、明治維新に至る幕末の激動が始まる以前の1838年(天保9年)に中央政権を担っていた人々は、30年後の明治維新とは何の関係もない。明治維新を担った人々は、在野で学問を身につけ自ら状況を動かしていった。現在の状況を動かすために、一人でも多くの国民が学問を身につけ、来るべき「近代政党」の受け皿になるべきだと本書は結論し、私もこれにつよく共感する。