持続的な経済成長という贈り物:「自由と成長の経済学」柿埜真悟

自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠 (PHP新書)

数十万年にわたる人類の歴史で、持続的な経済成長による貧困からの解放が可能になったのはここ最近、ほんの200年ほどの間であることが本書冒頭にある様々なグラフを見るとよくわかる。本書の著者は、持続的な経済成長を実現したのは、資本主義社会がもたらした自由な競争的市場の登場によるものであることを強調する。自由な競争的市場は、取引に参加するすべての当事者に便益を与えることができる。こうした「プラスサム」の特徴は、人類が長い歴史の中で直面してきた「ゼロサム」的状況ー誰かの利益は他の誰かの損によって得られるーと真っ向から反するために、直感的に理解されることが難しい。

著者は、それゆえに競争的自由市場に基づく資本主義は、登場以来様々な抵抗を受けてきたという。その最たるものが共産主義による抵抗である。共産主義者にとって資本主義は、ゼロサムゲームであり資本家が労働者を搾取することによって利益を得る仕組みにみえたのである。共産主義ソビエト連邦をはじめとする共産主義国家群の破綻によって20世紀末に挫折した。しかし著者は、最近これに類する「脱成長コミュニズム」の風潮があると指摘する。

資本主義は、伝統的なゼロサム的認識と反するために、今日でもありとあらゆる動機から批判されやすい。特に自由な経済活動はとかく制限されやすい。いわく、地球温暖化に対応するために、パンデミックに対応するために、広がった貧富の格差を縮めるために、エトセトラエトセトラ。実際には、本書で述べられているようにこれらの問題こそ自由な競争的市場による資本主義によって改善、解決されうるものであり、「脱成長コミュニズム」に類するやり方では決して解決されえないのである。