そわそわするドイツ史:「ドイツ・ナショナリズム」今野元

「ドイツ・ナショナリズム」という題名にひかれて読んでみた。一読し、そわそわするドイツ史だと思った。まず、用語の書きかえが新鮮である。ナチスは「NSDAP」であってナチズムは「国民社会主義」だし、オーストリアは「エステルライヒ」、神聖ローマ帝国はたんに「ローマ帝国」である。国際連合第二次世界大戦時の「連合国」のままである。本書を読んでいると、NSDAP政権はドイツ・ナショナリズムの現れのひとつであると思えてくる。なんだかそわそわしてくる。

本書において、「グローバル化された現代世界は階層化された秩序である」(本書、p313)。西欧的=「普遍」価値に基づくこの秩序はフランス革命に端を発し、二度の世界大戦で世界中に広がった。本書はドイツ・ナショナリズムを、西欧的=「普遍」価値とドイツ「固有」の価値のせめぎあいとして捉える。こうした立場から、西欧的=「普遍」価値の立場で作られた用語を無自覚・無前提に用いることはしないのである。

ドイツは日本と同様に第二次世界大戦の敗戦国であり、経済はともかく政治的には自己主張しない、控えめな国としてみられてきた。現代の階層的な世界秩序においては劣位とされてきたといえる。しかし1990年の東西ドイツ再統一以来再生への道を歩み始め、現在では欧州連合の指導国となり政治的にも軍事的にも国際政治において存在感を示している。

再統一後、シュレーダー政権(1998-2005年)に象徴される「六八年世代」の台頭によって、西欧的=「普遍」価値を内面化し、グローバル化した階層的世界秩序の優等生たらんとしている現代ドイツが、今後どのようにふるまっていくのかが注目される。例えばドイツは、西欧的=「普遍」価値の現れともいえる「脱炭素化」をこのまま急進的に進めていくのだろうか。

一方でドイツは「脱炭素化」と矛盾する(と私は考える)「脱原発」や「財政規律」も強力に推し進めようとしているのだ。イギリスは欧州連合を離脱したしフランスは原発政策を強力に推進しており、欧州内でも足並みはそろっていない。また「脱炭素化」に固執するドイツはロシアに天然ガス供給を依存しており、ウクライナ危機では指導力を発揮できていないようにみえる。

そわそわしてくるのは、グローバル化した階層的世界秩序では依然として劣位におかれている日本の今後と、ドイツの動向がかぶるようにみえるからでもある。中国とロシアは今、グローバル化した階層的世界秩序の変更を試みている。間近では、中国・台湾と、ロシア・ウクライナに対する対応が東西で連動してくるように思える。