宇宙は有機物と水でいっぱい:「地球外生命」小林憲正

 

子供のころ、バイキングの火星着陸のニュースは息を飲んで観ていた。新聞の一面を全部使って、赤茶けた地表と青空の電送写真が掲載され(何かの理由で後で青空はピンク色の空に修正されたが)、まるで地球みたいだとびっくりした。でもその後の生物探査実験の結果は惨憺たるもので、有機物もろくにみつからず火星は死の砂漠だとわかり、とてもがっかりした。

本書を読むと、このがっかり感は当の宇宙開発業界でも相当なものであったようで、その後20年間、火星探査は停滞してしまった。しかしバイキング探査以後半世紀近くがたち、生物の在り様や宇宙環境に対する見方は一変した。

まず、光を必要としない化学合成の生物が地球の深海や地下で次々に発見され、従来の「古典的生物圏」は広大な「暗黒生物圏」を含むものに拡張された。これによって光や環境温度、大気組成に関する生物の存在条件は大幅に緩和され、惑星系で生物が存在しうる条件であるハビタブルゾーンが「拡張ハビタブルゾーン」として、より広範なものとして再定義された、

そして、ヴォイジャー(1970-1980年代)、ガリレオ(1990年代)、カッシーニ(2000年代)などによる木星土星の集中的な探査により、エウロパ、ガニメデ、エンケラドゥス衛星の地下に全球スケールの液体の海があることが発見された。ケレスなどの小惑星にも液体の水があることがわかっている。冷たくて水もなく何もいないと思われていた外惑星系は「拡張ハビタブルゾーン」に含まれることになったのだ。さらに、水ではなくメタンを溶媒とする生命が考えられるならば、メタンの雨が降りメタンの川となってメタンの湖にそそぐ天王星の衛星タイタンにも生物がいる可能性がある。

興味深いのは、地球の生命のもととなった有機物は地球以外に宇宙にも起源をもつ可能性が大きいことだ。原始太陽系の環境は有機物の生成に適していたようだ。原始太陽系環境の片鱗を残しているだろう彗星や小惑星の探査も、生命の起源の解明につながる可能性がある。

思っていたより宇宙は、生命の発生に適している。少なくとも知的生命の存在よりずっとその確率は高そうだ。電波通信可能な知的生命の存在惑星数を示すドレイク数NはN=0.005L(Lは文明の平均継続年数)であるとすれば、生命の存在惑星数を示す拡張ドレイク数はN`=0.5L`(L`は生命の存続年数)と示すことができる(本書p199)。今のところ地球しか実例がないので、L=200年をいれるとN=1、つまり私たちだけが電波通信可能な知的生命となるが、L`=38億年(p62)をいれるとN`=19億となる。地球外生命の発見は時間の問題だろうと思う。

生命は宇宙にありふれているといえそうだし、いったん生まれれば完全に死滅することはないだろうが、個々の生物種の存続年数はずっと短い。知的生命が見つかりそうもない現状は、文明の存続年数はあまり長くないかもしれないと示唆している。知的生命が私たちの他に存在するとしても、この宇宙で出会うのはかつて存在した知的生命の遺跡か、私たちより若く電波交信しない文明ばかりなのかもしれない。