30年ぶりに再読した。初読のときに比べて、登場人物たちに感情移入できるようになったのは当たり前か。
魔法使い、大賢人、母、妻、といったそれまでの肩書や立場をまったく失った初老の男女が主人公である。
男は、これまで強大な魔法の力を使い正義を実現しようとしてきた。強大なゆえに自由に力をふるってきた。
女は、生まれ育った環境や血統の制約から解き放たれ、地域共同体に入りこみ妻となり母となる自由を得てその仕事を全うした。
いまや何者でもなくなった男女は、さらに自由に新しい人生をはじめようとしている。
しかし、社会的弱者になり地域共同体によって必ずしも守られなくなった彼らにとって、自力救済が前提となっているアースシーの社会はとんでもなく過酷だ。強盗、殺人、拉致、虐待といった暴力が彼らの自由を徹底的に破壊しようとする。
一方で、このときのアースシーには新しい王が現れ、恣意的な暴力を除き、自力救済によらない、新たな法による支配をもたらそうとしている。新しい人生を自由に歩もうとする彼らにとって、まさに必要な社会的条件がつくられようとしている。
ただし、自由を保証する「王の平和」を確立するためには、王が組織する強力な軍事力が必要であることを物語は強く暗示している。もちろん、「王の平和」の維持には民衆の支持が不可欠であることも示されているが。
個人の自由な人生を実現するためには、一方で強大な力による暴力の排除と法の支配が必要だ。いまはこの物語をそのように読んでしまう。とくに最後のエピソードが強烈に、そのことを印象づける。