歴史研究の最前線でいま活躍している研究者たちによる様々な「新説」の楽しい展覧会である。新しい史料を発見する、あるいは従来の史料の解釈を検討することで従来の説を批判的にとらえることで新説が生みだされ、またそれ自体批判的に検討されていく。本書からそうした活き活きとした研究現場の様子が見えてくる。
のっけから「倭の五王は記紀の天皇に対応できない」と書かれていて驚かされる。古代から近現代まで、様々な話題がわかりやすく解説されて面白く読める。
歴史を振り返るとき、結果がこうだったから原因はあれであったに違いないという先入観にとらわれることが多い。本書を読むとプロの歴史家たちもそのような先入観から必ずしも自由ではないと考えさせられる。
本書では、薩長同盟は初めから軍事同盟であった、関ヶ原の戦いは徳川家にとって「天下分け目」の決戦であった、豊臣秀次は嫡子となる秀頼が生まれたために秀吉にとって邪魔になったのだ、など様々な「先入観」が検討されている。これらに対してはいずれも興味深い新説が示されている。様々な話題の中に共通して見えてくるのは、歴史は偶然の出来事の連続であり「結果ありき」ではなく、目まぐるしい情勢変化の渦中で判断に必要な情報が不足するうちに登場人物たちがその都度決断していったことの積み重ねであるということだ。
様々な新説のなかから浮き出てくる新たな人物像が魅力的である。たとえば平城天皇、足利義詮、徳川家康、岩瀬忠震、昭和天皇。皆、周囲の情勢に振り回されながらも明確な政治的意図をもって能動的に行動していた様子がうかがえる。現代の歴史小説家たちにとって格好の素材となればと期待する。