ロシア・ウクライナ戦争が2022年2月に始まってからもう4年以上が経過した。本書は開始直後といえる2022年9月に出版されていて、ロシア軍事の専門家である著者がいろいろな識者と対談した内容をまとめている。開始直後の戦争に対する状況認識を伝えていて興味深い。対談形式をとることによって、それぞれが一人で書く場合には出てこなかったかもしれない発言をきくことができるのも良い。
軍事専門家の高橋杉雄氏との2回にわたる対談によって、開戦後半年が経過した当時の戦況が良く理解できる。
当初、首都キーウの掌握を目指したロシア軍の大規模な機甲部隊が二つの方向から侵入するとともに、空挺部隊が首都近郊の空港を占領すべく急襲した。しかし、ウクライナ軍はこれらすべてを迎え撃ち撃退することに成功した。
ロシア軍はウクライナ軍の激しい抵抗を予期しておらず、早期でキーウを掌握するという目論見は完全に外れてしまい、東部と南部の2つの戦線で現在に至るまで4年間続く、長期消耗戦に突入することになった。
ここでの彼らの分析は、
今一番ありそうなシナリオは、ウクライナが戦線を引き直して、そこで年単位の長期戦になるというものでしょう。(本書、p111)(高橋氏)
であり、適切だった。さらに当時の状況を
ロシア軍は、火力が強いけれど、兵力が足りない。ウクライナ軍は兵力の数は多いけれど、火力が足りてない。(p206)(小泉氏)
と分析した。その後ロシア軍は部分動員と北朝鮮の参戦で兵力を増強し、ウクライナ軍は西側諸国の支援と自力開発によって火力を増強し、両者の力は均衡しつつ現在に至っている。
総力戦で抵抗を続けるウクライナ軍はしかし、4年をこえる戦争によって兵力不足に陥いり、それを解決すべく現在は、陸海空で膨大な無人兵器群を統合的に運用する最先端の軍事技術を開発している。本書の末尾で支援の必要が指摘されたATACMOSなどの弾道ミサイルについては、国産化に成功しつつある。この点については、本書では指摘がみられなかった新しい事態であると思う。
一方で、2025年に始まったアメリカのトランプ政権は必ずしもウクライナを全面的に支援することはなく、ウクライナは大国の間を注意深く泳がざるを得ない状況だ。
こうした状況をふまえて、本書で注目される発言をいくつか抜き出してみると、
複数の大国がそれぞれ異なる価値観を掲げて「競争的に共存する」世界に変化した(p28)(小泉氏)
信じる者がなくなった時に、全力で破滅に向かって走り出してしまう傾向が、ロシア人にはあるような気がします。(p60)(小泉氏)
プーチンは、同盟に依存することなく自国で安全保障を全うできる国が主権国家だと言っているのですか。(ヤマザキマリ氏)
そのとおりです。現実的には核を保有している国ということになりますから、米、露、英、仏、中国、インド、パキスタン、イスラエル、そして北朝鮮の九カ国のみで、日本もドイツもイタリアも「主権を制限された国」扱いなんです。(p172-173)(小泉氏)
今になって冷戦で負けた人々のルサンチマンが噴き出してきたのかもしれない。(p235)(安田峰俊氏)
いわゆる「西側的」価値観を今だったら倒せるかもしれないという感覚が、今般のロシアの挙動にもつながっている気がします。(p236)(マライ・メントライン氏)
だからすべてのパワーが「ろくでもない」という話なんだと思います。ろくでもないけれども、そのなかでよりまともな「ろくでもない」を選びながら、良い方向に向かって這っていくしかないと思うんです。(p239)(小泉氏)
4年たった現在でも非常に示唆に富む発言だと思う。ウクライナは、それぞれの思惑で動く大国どうしの競争に揉まれ、それに抗して国益を確保しようとしている。日本もまったく同様の状況に直面しており、これからますますその傾向は強まるだろう。ロシア・ウクライナ戦争は、従来なかった新しい国際情勢のほんの始まりにすぎないのである。













