現代の社会では、あからさまな権力による力づくの支配というよりは、規律を個人の意識に内面化させ、その結果として他人と「同じように働く」(本書、p2)ことが当然のように仕向けられていく権力のあり方がみられる。このような権力は、ミシェル・フーコー…
本書は2021年に、「複雑な物理システムの理解への貢献」(本書、p272)に対してノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏が、共著者のブロッコリー氏とともに、これまでの仕事についてまとめて書いたものだ。 今から70年近く前の1958年、真鍋氏は、米国で新しい…
本書は、単年度で政府の歳入と歳出の差(基礎的財政収支、プライマリーバランス)を均衡させるべきだという極端な財政均衡主義を信じることを、「ザイム真理教」と呼び、徹底的に批判している。 しかし、国民の多くは「ザイム真理教」を信じていると思われる…
グイグイ(ひっぱる)、ノソノソ(歩く)、などの「感覚イメージを写し取る、特徴的な形式を持ち、新たに作り出せる語」(p6、本書)である「オノマトペ」(p vii)を手がかりに、言葉の成り立ちと本質に迫るたいへん意欲的な本である。 前半ではオノマトペの実…
本作の主人公、浮世絵師の歌川貞芳は、常に描き続けようとする絵師である。「この世のすべてのものが、一つ一つ、かけがえない存在(もの)だということ」(本書文庫版、p202)を感じ、そこここに満ち溢れる「生命の勢」(p83)を写しとりたいからである。作…
本書は、歴史家網野善彦が、「日本」国ではなく、日本列島に生じた人間社会の歴史を様々な面から記述しようと試みた意欲作である。 「日本」は、古代において日本列島各地にあった地方政権のうちヤマト王権が勢力を拡大し、701年、大宝律令の制定とともに対…
1990年代のバブル崩壊以降、日本の大手企業の多くでは年功制の賃金制度が見直され、成果主義型の賃金制度が採用されることになった。 本書は、<1>これまでの仕事の成果を何らかの客観的な手法で評価する、あるいは、<2>そうした成果に応じた賃金体系で…
軍と兵士のローマ帝国 (岩波新書 新赤版 1967) 作者:井上 文則 岩波書店 Amazon 岩波新書のローマ帝国ものが面白い。 自壊した帝国: 「新・ローマ帝国衰亡史」 南川高志 - myzyyの日記 職務に忠実な人:「マルクス・アウレリウス」南川高志 - myzyyの日記 と…
唐―東ユーラシアの大帝国 (中公新書) 作者:森部豊 中央公論新社 Amazon 中国史の概説書として一王朝だけを解説するものは意外にも少ないそうであるが、本書はこのうち「唐」(618-907)をとりあげた本である。 気候寒冷化にともない、多くの遊牧民が中国に南下…
マルクス・アウレリウス、ローマ帝国の最盛期であったといわれる「五賢帝時代」の最後を飾る皇帝である。ストア派哲学の書といわれる「自省録」を著わした哲人皇帝としてつとに知られている。 本書は、マルクス・アウレリウス(マルクス)の生涯を多様な史料…
「ウィズ・コロナ」に向けて社会が大きく動こうとする今、筋金入りのリベラリスト経済学者たちによる時宜を得た対談集が出た。 彼らの基本的な立場は、ミルトン・フリードマンの定義による「新自由主義」と言っていいだろう。驚くほど簡潔にまとまった定義だ…
30年ぶりに再読した。初読のときに比べて、登場人物たちに感情移入できるようになったのは当たり前か。 魔法使い、大賢人、母、妻、といったそれまでの肩書や立場をまったく失った初老の男女が主人公である。 男は、これまで強大な魔法の力を使い正義を実現…
第一次(2006-2007)、第二次(2012-2020)と長きにわたった安倍政権の歴史的評価が定まるのはまだ相当に時間がかかるだろうが、本人がどのようなことを成そうとしたのかについては、数多く行われた演説を読むだけでもかなりのことを知ることができるように…
渡辺共二の名著「日本近世の起源」は、座右に置いてずっと読み続ける価値のある本だ。 myzyy.hatenablog.com 最近は渡辺共二による豊臣秀吉の評価が面白いと思った。備忘として書き留めておこう。 「秀吉がヒューマニストでもなければ民衆の友でもなかったこ…
法と言葉の中世史 (平凡社ライブラリー) 作者:笠松 宏至 平凡社 Amazon 「すぐれた研究者によって巧妙に概念化された古語は、それが現代語であるときよりも、はるかに魅力的で含蓄に富むひびきを伴って聞こえてくる。」(本書、p29) と著者自身が語っている…
ペルシア帝国 (講談社現代新書) 作者:青木健 講談社 Amazon 本来、思想史を専門としており、一般向けとしてはゾロアスター教についての新書などを書いてきた著者が、ついにど真ん中の「世界史上に輝く」ペルシア帝国を全力で書ききった。まさに「世界史ファ…
南北朝時代―五胡十六国から隋の統一まで (中公新書) 作者:会田大輔 中央公論新社 Amazon 4世紀から6世紀にかけ、気候の寒冷化とともにユーラシア大陸では北方遊牧民が大規模な移動を始め、東(中国)西(オリエント)の農耕中心の文明におおきな影響を与え…
一読して、結局、「ホモ属最後の末裔」として生き残ったのが私たちホモサピエンスだと思った。昔から、人類の歴史は、猿人、原人、旧人、新人と直線的な発展段階を経て現在に至るというイメージがあった。しかし、日進月歩しているDNA解析の最新成果から本書…
ふた月ほど前の2月15日に、某大使がインタビューに答え「軍事技術的な措置」の可能性について述べていたが、公式発表では「特殊軍事作戦」となったようだ。実際にはまぎれもない「戦争」であり、現在も進行中の恐ろしい惨禍となっている。 なぜ戦争になって…
若い人々の活躍を描いた前二作とはうって変わり、衰えと引退を意識した初老男たちの話になったので、がぜんと興味が出てきた。 年寄りになったら、金と権力はさっさと若い人に譲り渡して、 「好きなラーメンを好きに作りたいだけの、イカれたラーメン馬鹿だ…
地球外生命 アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来 (中公新書) 作者:小林憲正 中央公論新社 Amazon 子供のころ、バイキングの火星着陸のニュースは息を飲んで観ていた。新聞の一面を全部使って、赤茶けた地表と青空の電送写真が掲載され(何かの理由で…
ドイツ・ナショナリズム 「普遍」対「固有」の二千年史 (中公新書) 作者:今野元 中央公論新社 Amazon 「ドイツ・ナショナリズム」という題名にひかれて読んでみた。一読し、そわそわするドイツ史だと思った。まず、用語の書きかえが新鮮である。ナチスは「NS…
数十万年にわたる人類の歴史で、持続的な経済成長による貧困からの解放が可能になったのはここ最近、ほんの200年ほどの間であることが本書冒頭にある様々なグラフを見るとよくわかる。本書の著者は、持続的な経済成長を実現したのは、資本主義社会がもたらし…
これまで京都を中心とする畿内の戦国政治史は、織田信長の上洛以前までは混沌としていて、分裂した足利将軍家や細川家の内輪の権力争いに終始しているという印象があった。ある本では、畿内戦国史の主役は退廃した(?)武将たちの争いよりもむしろ自治を進…
日本史における「荘園」は、古代末期に発生しその後の中世社会の特徴を端的に示す重要な土地制度である。本書は、従来のような古文書の解読によって得られた古典的な知見に加え、考古学による発掘の知見や古気候のデータなど最新のデータでアップデートされ…
日銀副総裁の退任以降、活発な出版活動を続けている著者が、今取り組んでいるという「資本主義論」のうち現代日本の格差問題を論じた部分を出版したのが本書である。大前提としてデフレ脱却というマクロ経済環境の問題解決ありきというのが基本中の基本であ…
トルコ現代史 オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで (中公新書) 作者:今井宏平 中央公論新社 Amazon 1923年の共和国建国以来、伝統的なイスラム教とは一線を画して世俗主義と共和主義、人民主義などの建国6原則のもと、近代化を進めてきたトルコの道の…
現代ロシアの軍事戦略 (ちくま新書) 作者:小泉悠 筑摩書房 Amazon 2014年のクリミア併合以来、ロシア軍の活動が活発になっているように思える。クリミア半島にいきなり黒覆面の兵士たちが現れ、あれよあれよという間に住民投票でロシアにクリミアが併合され…
脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている (PHP新書) 作者:田中 秀臣 PHP研究所 Amazon 新型コロナウィルス感染症への対応は、国内ではワクチン接種の本格化とともに次の段階に移ろうとしている。本書で述べられているよう…
ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ) 作者:東浩紀 中央公論新社 Amazon 1990年代に若き俊英の批評家として颯爽と言論界に登場し華々しく活動してきた著者が、10年前に起業してからこれまでのことを綴っている。 現在の経営体制に落ち着くま…