ウィズ・コロナにおける「新自由主義」のすすめ:「自由な社会をつくる経済学」岩田規久男・柿埜真吾

自由な社会をつくる経済学

「ウィズ・コロナ」に向けて社会が大きく動こうとする今、筋金入りのリベラリスト経済学者たちによる時宜を得た対談集が出た。

彼らの基本的な立場は、ミルトン・フリードマンの定義による「新自由主義」と言っていいだろう。驚くほど簡潔にまとまった定義だ。

個人の活動に事細かに干渉する国家権力への厳しい制限を重視しつつも、同時に国家が果たすべき重要な望ましい役割があることを明確に認識すべきである。このような考え方がしばしば新自由主義と呼ばれている思想なのである。〔・・・〕政府は〔・・・〕独占を防ぎ、安定した金融政策を実施し、悲惨な貧困を救い、〔・・・〕公共事業を実施し、〔・・・〕自由競争が繁栄をもたらし、価格システムが効果的に機能するような枠組みを提供すべきである。」(本書、p231-232)

著者の岩田氏は税制による公平性の確保を重視するのに対し、もう一方の柿埜氏は規制緩和を重視するという微妙な違いはあるが、本書の議論は基本的にこの「新自由主義」に基づいている。ところが、これまで日本で流布してきた「新自由主義」はたんなる「緊縮主義」でしかないのである。

緊縮主義のはじまり:「日本政治の対立軸」大嶽秀夫 - myzyyの日記

本書では「緊縮主義」とは異なり、自由競争と価格システムが効果的に機能するような枠組みの実現について、具体的な提言が示されている。

ウィズ・コロナの今後をみすえて、いくつか注目すべき指摘がある。コロナ対策に伴うアメリカの財政金融政策は過激すぎたので、今後の金融システムの不安定化への懸念があるが、実際いま、アメリカでは銀行の破綻が相次いでおり彼らの予想は当たっている。関連して、金融システム安定化のためのルールに基づいたレバレッジ規制の提言が注目される。

一方、日本の財政金融政策はよりベターだった。増税無しにそれなりの財政支出が行われ、日銀がこれを支援した。ウィズ・コロナの状況で現在の資源高をうまく凌げばデフレから完全に脱却し、持続的な賃金上昇のもとで、本格的に経済成長できるチャンスを迎えている。その意味で今は、日本社会の将来を決める重要な時期である。

彼らの、「人間の本性を変え」「特定の生活様式を強制する」ことへの強い懸念にはおおいに共感する。とくに「新しい生活様式」が事実上強制された3年間を経験してしまった今は、なおさらである。

多様性と人権を守る唯一のものが資本主義であり、自由で民主的な個人主義こそ社会の進歩をもたらす」(p214)