2012年12月の第二次安倍政権発足以降、日本の左派政党の支持率は大きく落ち込み続け、最近では左派政党すべての支持率を足しても10%に届かない有様である。これについて本書は、左派政党の支持基盤が、一般の労働者から「知的エリート」に移っており、第二次安倍政権になってから特に一般の労働者の支持を獲得できなくなっているからだと指摘する。直近20年の国政選挙の結果を見ると、与党の支持はその時の雇用情勢で決まる。非正規雇用者が全就業者の1/3を占める2000万人に及ぶ現在、「「景気と雇用」こそが、選挙の帰趨を決める」(本書、p49)のである。この点、第二次安倍政権は金融緩和によって継続的に雇用を増やすことに成功しており、国政選挙に勝ち続けている。
本書は、これからの政治を決める対立軸として、ネイティビズム(排外主義)かグローバリズムか、富裕層優遇か低所得者支援か、という二通りの視点を示す。ネイティビズムは「排外主義」というよりも「国民中心主義」とでも言うべきもので、移民を積極的に受け入れるかどうかに関わる価値判断である。現在の安倍政権の立場は、グローバリズム(TPPなど自由貿易推進、移民の受け入れ促進)+富裕層優遇(消費増税、法人税減税、財政緊縮)と言える。それでも、金融緩和で雇用を増やし続けている点で、左派政党に比べれば低所得者の支持も引きつけているのである。
安倍政権以後のことを考えると、デフレを脱却するまで金融緩和+財政拡張を進める、すなわち反緊縮と、これに加え自国民の雇用を重視するという意味でのネイティビズム、という選択肢を示す政治勢力が出てくるかどうかが注目される。こうした勢力は既に欧米では登場しており、いわゆる「極右」と呼ばれているが、それだけでは済まない大きな政治的可能性を秘めている。
これに対し左派政党は、イギリス労働党のようにグローバリズム+低所得者支援という価値判断を示す場合があるが、低所得者支援(福祉強化)は必然的に支援を受ける資格の問題(自国民であるか否か)に直結するので、グローバリズムとの齟齬が出てきてしまう。この点、反緊縮+ネイティビズムという方向は相互に矛盾しないので、政治的にうまく行く可能性があると言える。また今日の左派政党が依拠しているとする「知的エリート」などというものの実態はいわゆるホワイトカラー労働者であり、AIなど技術の発展によって容易に高賃金でなくなっていくものと予想される。将来は、少数の資本家と経営者を除いた多数の人々が低所得者になっていくかもしれないのである。
直近の参院選(2019年7月21日投票)の結果を見ると、「反緊縮+ネイティビズム」という選択肢を明確に示す政治勢力はまだ登場していないようであるが、そうした方向への萌芽は出てきているように思う。本書が示唆するように、少子高齢化の今こそ、機械(AI)、高齢者などを活用して生産性を大きく向上させ新たな高度経済成長を実現する千載一遇の好機会がやってきていると考えるべきである。「反緊縮+ネイティビズム」は、これを実現するための政治的選択肢として十分考慮に値するのではないか。
歴史家、坂野潤治の言葉を借りれば、「大局観から改革の大枠を示す思想家の言説が、政治的変革者の耳に届くのは、目の前の政治的現実が大きな転換点に差しかかったときである」(「未完の明治維新」、p18)。「反緊縮+ネイティビズム」が多くの政治家の耳に届くような政治的転換点は、果たしてやってくるのだろうか。