2023-01-01から1年間の記事一覧

八千万人の信者:「ザイム真理教」森永卓郎

本書は、単年度で政府の歳入と歳出の差(基礎的財政収支、プライマリーバランス)を均衡させるべきだという極端な財政均衡主義を信じることを、「ザイム真理教」と呼び、徹底的に批判している。 しかし、国民の多くは「ザイム真理教」を信じていると思われる…

言葉は身体から切り離せない!?:「言語の本質」今井むつみ・秋田喜美

グイグイ(ひっぱる)、ノソノソ(歩く)、などの「感覚イメージを写し取る、特徴的な形式を持ち、新たに作り出せる語」(p6、本書)である「オノマトペ」(p vii)を手がかりに、言葉の成り立ちと本質に迫るたいへん意欲的な本である。 前半ではオノマトペの実…

江戸の地形を歩く:「江戸切絵図貼交屏風」辻邦生

本作の主人公、浮世絵師の歌川貞芳は、常に描き続けようとする絵師である。「この世のすべてのものが、一つ一つ、かけがえない存在(もの)だということ」(本書文庫版、p202)を感じ、そこここに満ち溢れる「生命の勢」(p83)を写しとりたいからである。作…

網野善彦が見た、経済主義と反経済主義:「日本社会の歴史 下」網野善彦

本書は、歴史家網野善彦が、「日本」国ではなく、日本列島に生じた人間社会の歴史を様々な面から記述しようと試みた意欲作である。 「日本」は、古代において日本列島各地にあった地方政権のうちヤマト王権が勢力を拡大し、701年、大宝律令の制定とともに対…

未来!未来!未来!:「虚妄の成果主義」高橋伸夫

1990年代のバブル崩壊以降、日本の大手企業の多くでは年功制の賃金制度が見直され、成果主義型の賃金制度が採用されることになった。 本書は、<1>これまでの仕事の成果を何らかの客観的な手法で評価する、あるいは、<2>そうした成果に応じた賃金体系で…

特異な「地中海世界」を生み出した怪物:「軍と兵士のローマ帝国」井上文則

軍と兵士のローマ帝国 (岩波新書 新赤版 1967) 作者:井上 文則 岩波書店 Amazon 岩波新書のローマ帝国ものが面白い。 自壊した帝国: 「新・ローマ帝国衰亡史」 南川高志 - myzyyの日記 職務に忠実な人:「マルクス・アウレリウス」南川高志 - myzyyの日記 と…

ユーラシア諸国家繁栄の母胎として:「唐ー東ユーラシアの大帝国」森部豊

唐―東ユーラシアの大帝国 (中公新書) 作者:森部豊 中央公論新社 Amazon 中国史の概説書として一王朝だけを解説するものは意外にも少ないそうであるが、本書はこのうち「唐」(618-907)をとりあげた本である。 気候寒冷化にともない、多くの遊牧民が中国に南下…

職務に忠実な人:「マルクス・アウレリウス」南川高志

マルクス・アウレリウス、ローマ帝国の最盛期であったといわれる「五賢帝時代」の最後を飾る皇帝である。ストア派哲学の書といわれる「自省録」を著わした哲人皇帝としてつとに知られている。 本書は、マルクス・アウレリウス(マルクス)の生涯を多様な史料…

ウィズ・コロナにおける「新自由主義」のすすめ:「自由な社会をつくる経済学」岩田規久男・柿埜真吾

「ウィズ・コロナ」に向けて社会が大きく動こうとする今、筋金入りのリベラリスト経済学者たちによる時宜を得た対談集が出た。 彼らの基本的な立場は、ミルトン・フリードマンの定義による「新自由主義」と言っていいだろう。驚くほど簡潔にまとまった定義だ…