八千万人の信者:「ザイム真理教」森永卓郎

ザイム真理教

本書は、単年度で政府の歳入と歳出の差(基礎的財政収支プライマリーバランス)を均衡させるべきだという極端な財政均衡主義を信じることを、「ザイム真理教」と呼び、徹底的に批判している。

しかし、国民の多くは「ザイム真理教」を信じていると思われる。最近のある世論調査では、消費税の引き下げに賛成する人の割合は35%である。ということは、実に65%=8000万人の信者がいると思われるのだ。

景気が悪くなって失業が増えるような場合、民間がお金を使わなくなって需要が不足するので、政府が国債を発行し、財政赤字を増やして需要を拡大する。これはごく標準的なマクロ経済政策であり、その意味で短期的には財政均衡主義は間違っている。

さらに、長期的にデフレにおちいった場合は、発行した国債中央銀行に買い上げてもらい、ただちに償還することなく借りかえをくりかえし、長期的に保有してもらうようにすれば財政を均衡させる必要はない。この場合のリスクは通貨(国債)の膨張によるインフレだが、デフレからインフレに転換させることがそもそもの目標なのだから、マイルドなインフレに移行するぶんにはまったく問題ない。

それでは、マイルドなインフレに移行するまでどれくらい財政を拡大できるか。単純にはインフレ率を見ればよいと思われるが、名目GDP成長率が国債の長期利率を上回っている間は拡大できる。現状ではまったく問題ない。

政府が使いみちを決めて財政支出をしても、無駄遣いばかり増えて意味がないという意見があるが、財政支出を減税にまわせば、市場を経由した民間の活動において効率的にお金が使われることになるだろう。

しかしこのような理解が広がらないのは、財政均衡主義が宗教的信念といえるほど強くいきわたっているからだと本書は言う。そのとおりなのだろうが、個人的には、官僚よりもむしろ与党の有力政治家たちの信念が固いのではないかとおもう。現状の、政権交代せず同じ与党が続くような硬直的な体制では、年功序列的に偉くなった有力政治家たちの信念を変えるのは難しい。やはり政権交代可能で財政均衡主義にごだわらない新たな野党勢力が成長していき、政権を担当する人間が変わらなければ、財政均衡主義的な政策はこのまま続いていくように思う。大きな政策の方向付けを変える政治の役割は、とても大事だ。