2021-01-01から1年間の記事一覧

三好・織田・羽柴時代という画期:「三好一族」天野忠幸

これまで京都を中心とする畿内の戦国政治史は、織田信長の上洛以前までは混沌としていて、分裂した足利将軍家や細川家の内輪の権力争いに終始しているという印象があった。ある本では、畿内戦国史の主役は退廃した(?)武将たちの争いよりもむしろ自治を進…

最新のデータで日本中世史をアップデート:「荘園」伊藤俊一

日本史における「荘園」は、古代末期に発生しその後の中世社会の特徴を端的に示す重要な土地制度である。本書は、従来のような古文書の解読によって得られた古典的な知見に加え、考古学による発掘の知見や古気候のデータなど最新のデータでアップデートされ…

マクロありきのミクロ経済政策:「「日本型格差社会」からの脱却」 岩田規久男

日銀副総裁の退任以降、活発な出版活動を続けている著者が、今取り組んでいるという「資本主義論」のうち現代日本の格差問題を論じた部分を出版したのが本書である。大前提としてデフレ脱却というマクロ経済環境の問題解決ありきというのが基本中の基本であ…

経済成長が後押ししたトルコの民主化:「トルコ現代史」 今井宏平

トルコ現代史 オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで (中公新書) 作者:今井宏平 中央公論新社 Amazon 1923年の共和国建国以来、伝統的なイスラム教とは一線を画して世俗主義と共和主義、人民主義などの建国6原則のもと、近代化を進めてきたトルコの道の…

インテリジェンスと正規軍:「現代ロシアの軍事戦略」 小泉悠

現代ロシアの軍事戦略 (ちくま新書) 作者:小泉悠 筑摩書房 Amazon 2014年のクリミア併合以来、ロシア軍の活動が活発になっているように思える。クリミア半島にいきなり黒覆面の兵士たちが現れ、あれよあれよという間に住民投票でロシアにクリミアが併合され…

亡国の経済学に抗して:「脱GHQ史観の経済学」田中秀臣

脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている (PHP新書) 作者:田中 秀臣 PHP研究所 Amazon 新型コロナウィルス感染症への対応は、国内ではワクチン接種の本格化とともに次の段階に移ろうとしている。本書で述べられているよう…

経営の身体、コミュニケーションの身体:「ゲンロン戦記」東浩紀

ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ) 作者:東浩紀 中央公論新社 Amazon 1990年代に若き俊英の批評家として颯爽と言論界に登場し華々しく活動してきた著者が、10年前に起業してからこれまでのことを綴っている。 現在の経営体制に落ち着くま…

遺伝子の呪縛:「女と男 なぜわかりあえないのか」橘玲

女と男 なぜわかりあえないのか (文春新書) 作者:橘 玲 文藝春秋 Amazon ここ二十年ほどで男女の性的ふるまいについての進化心理学的な理解は急速に進んだ、と本書の著者は言う。ヒトが進化した環境は恒常的な飢餓状態にあり、そのなかで子孫を増やしていく…

中国「古典国制」のはじまり:「中華の成立」渡辺信一郎

中華の成立: 唐代まで (岩波新書) 作者:信一郎, 渡辺 発売日: 2019/11/21 メディア: 新書 二千年まえに漢王朝を簒奪した王莽は、儒学に基づいて今日までに至る「中華帝国」の模範となる国制を形作り、これはその後「漢魏の法」として完成された。本書の著者…

「戦時体制」のグダグダ:「アジア・太平洋戦争」吉田裕

アジア・太平洋戦争―シリーズ日本近現代史〈6〉 (岩波新書) 作者:吉田 裕 発売日: 2007/08/21 メディア: 新書 現在の「緊急事態」と「戦時体制」を比べる議論がネットでもよくみられるようになった。「戦時体制」とはあの日中戦争、太平洋戦争の頃の日本の社…

新説から浮き出てくる新たな人物像の魅力:「新説の日本史」河内春人・亀田俊和・矢部健太郎・高尾善希・町田明広・舟橋正真

新説の日本史 (SB新書) 作者:河内 春人,亀田 俊和,矢部 健太郎,高尾 善希,町田 明広,舟橋 正真 発売日: 2021/02/05 メディア: Kindle版 歴史研究の最前線でいま活躍している研究者たちによる様々な「新説」の楽しい展覧会である。新しい史料を発見する、ある…

先行きは明るい:「新型コロナの科学」黒木登志夫

新型コロナの科学 パンデミック、そして共生の未来へ (中公新書) 作者:黒木登志夫 発売日: 2021/02/16 メディア: Kindlしんg 新型コロナウィルス感染症についてまとまった知識を得るためにぴったりの一冊である。参考文献も多く載っていて便利である。本書…

史料が拓いた近現代史学の転換:「歴史と私」伊藤隆

歴史と私 史料と歩んだ歴史家の回想 (中公新書) 作者:伊藤隆 発売日: 2016/01/08 メディア: Kindle版 いまから半世紀以上前、国内の歴史学とりわけ近現代史は、皇国史観、そしてマルクス主義史観の影響を強く受けていたが、本書の著者である伊藤隆氏をはじめ…