2022-01-01から1年間の記事一覧

自由・法・権力:「ゲド戦記 帰還」アーシュラ・K・ルグィン

30年ぶりに再読した。初読のときに比べて、登場人物たちに感情移入できるようになったのは当たり前か。 魔法使い、大賢人、母、妻、といったそれまでの肩書や立場をまったく失った初老の男女が主人公である。 男は、これまで強大な魔法の力を使い正義を実現…

「歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものである」:「安倍総理のスピーチ」谷口智彦

第一次(2006-2007)、第二次(2012-2020)と長きにわたった安倍政権の歴史的評価が定まるのはまだ相当に時間がかかるだろうが、本人がどのようなことを成そうとしたのかについては、数多く行われた演説を読むだけでもかなりのことを知ることができるように…

渡辺共二による秀吉の評価:「日本近世の起源」渡辺共二

渡辺共二の名著「日本近世の起源」は、座右に置いてずっと読み続ける価値のある本だ。 myzyy.hatenablog.com 最近は渡辺共二による豊臣秀吉の評価が面白いと思った。備忘として書き留めておこう。 「秀吉がヒューマニストでもなければ民衆の友でもなかったこ…

様々な言葉から浮き出てくる中世のダイナミズム:「法と言葉の中世史」笠松宏至

法と言葉の中世史 (平凡社ライブラリー) 作者:笠松 宏至 平凡社 Amazon 「すぐれた研究者によって巧妙に概念化された古語は、それが現代語であるときよりも、はるかに魅力的で含蓄に富むひびきを伴って聞こえてくる。」(本書、p29) と著者自身が語っている…

エーラーン・シャフルと古代オリエントの終焉:「ペルシア帝国」青木健

ペルシア帝国 (講談社現代新書) 作者:青木健 講談社 Amazon 本来、思想史を専門としており、一般向けとしてはゾロアスター教についての新書などを書いてきた著者が、ついにど真ん中の「世界史上に輝く」ペルシア帝国を全力で書ききった。まさに「世界史ファ…

南北朝の「未発の可能性」:「南北朝時代」会田大輔

南北朝時代―五胡十六国から隋の統一まで (中公新書) 作者:会田大輔 中央公論新社 Amazon 4世紀から6世紀にかけ、気候の寒冷化とともにユーラシア大陸では北方遊牧民が大規模な移動を始め、東(中国)西(オリエント)の農耕中心の文明におおきな影響を与え…

生き残ったホモサピエンス:「人類の起源」篠田謙一

一読して、結局、「ホモ属最後の末裔」として生き残ったのが私たちホモサピエンスだと思った。昔から、人類の歴史は、猿人、原人、旧人、新人と直線的な発展段階を経て現在に至るというイメージがあった。しかし、日進月歩しているDNA解析の最新成果から本書…

戦争をひきおこすもの、戦争がもたらすこと:「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」加藤陽子

ふた月ほど前の2月15日に、某大使がインタビューに答え「軍事技術的な措置」の可能性について述べていたが、公式発表では「特殊軍事作戦」となったようだ。実際にはまぎれもない「戦争」であり、現在も進行中の恐ろしい惨禍となっている。 なぜ戦争になって…

老いてからすること:「らーめん再遊記」久部緑郎・河合単

若い人々の活躍を描いた前二作とはうって変わり、衰えと引退を意識した初老男たちの話になったので、がぜんと興味が出てきた。 年寄りになったら、金と権力はさっさと若い人に譲り渡して、 「好きなラーメンを好きに作りたいだけの、イカれたラーメン馬鹿だ…

宇宙は有機物と水でいっぱい:「地球外生命」小林憲正

地球外生命 アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来 (中公新書) 作者:小林憲正 中央公論新社 Amazon 子供のころ、バイキングの火星着陸のニュースは息を飲んで観ていた。新聞の一面を全部使って、赤茶けた地表と青空の電送写真が掲載され(何かの理由で…

そわそわするドイツ史:「ドイツ・ナショナリズム」今野元

ドイツ・ナショナリズム 「普遍」対「固有」の二千年史 (中公新書) 作者:今野元 中央公論新社 Amazon 「ドイツ・ナショナリズム」という題名にひかれて読んでみた。一読し、そわそわするドイツ史だと思った。まず、用語の書きかえが新鮮である。ナチスは「NS…

持続的な経済成長という贈り物:「自由と成長の経済学」柿埜真悟

数十万年にわたる人類の歴史で、持続的な経済成長による貧困からの解放が可能になったのはここ最近、ほんの200年ほどの間であることが本書冒頭にある様々なグラフを見るとよくわかる。本書の著者は、持続的な経済成長を実現したのは、資本主義社会がもたらし…