1990年代のバブル崩壊以降、日本の大手企業の多くでは年功制の賃金制度が見直され、成果主義型の賃金制度が採用されることになった。
本書は、<1>これまでの仕事の成果を何らかの客観的な手法で評価する、あるいは、<2>そうした成果に応じた賃金体系で動機づけを行う制度を、成果主義であると定義する。そして、成果主義は仕事への動機づけとして機能せず、企業経営にとって有害であるとする。
なぜなら、<1>仕事の成果を表現する客観的な指標は厳密には存在せず、<2>人を積極的に仕事に動機づけるのは、賃金のような外的な報酬ではなく、仕事内容そのものであり、仕事内容を自ら決定して、効果的な変化を生み出したいという欲求であるからだ。このことは、講演内容をまとめた第1章を読めば端的にわかるようになっているが、第3章にある経営科学としての実証的な議論が興味深い。
賃金のような外的な報酬は、仕事への不満足をとり除き仕事を継続させる動機づけとして働くのであり、そのため日本型の年功賃金制は、ライフサイクルに応じた生活保障として機能していた。ところがバブル崩壊後に生じ長く続いたデフレ不況によって賃金は毎年上昇する(当時「ベースアップ」と呼ばれていた)ことがなくなり、年功賃金制を維持することが不可能になった。今後、需要駆動の持続的なマイルドインフレを実現できれば、事態は変化していくものと思われる。
本書のもっとも興味深い点は、自分の仕事の将来の見通しが明るいものであれば、現状の職務に満足している必要すらないことを示していることである。まさに、「未来! 未来! 未来!」(本書、p182)なのである。読むべきは、歴史的絶望に支配されたマルクス・エンゲルスの「共産党宣言」よりも、未来への希望の匂いに満ちたトーマス・ペインの「コモン・センス」なのである。企業経営でも未来の見通しは重要であるが、国がマクロ経済政策を正しく実行して、経済全体の見通しを明るいものにしていくことの重要性も痛感する。