- 作者: キム・スタンリー・ロビンスン,加藤直之,渡邊利道,大島豊
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2017/04/21
- メディア: 文庫
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本書刊行後20年が経過した現在では、本書で描かれている200年後の世界で深刻となっている世界的な人口増加の見通しはかなり和らいだものとなっている。本書では地球の人口は180億、火星の人口は1800万(下巻, p178)とされているが、現在の世界人口増加の見通しでは、100年後に100億をちょっと超えるくらいで、増加率は落ちていく傾向にあるようだ(https://esa.un.org/unpd/wpp/Graphs/Probabilistic/POP/TOT/ ('World'を選択))。だから、地球からのものすごい移民圧力がかかって火星の政治を変えていくダイナミズムは、現代の感覚ではやや実感に乏しい。
200年後の話だからそれはまあいいのだが、「人口が少なく、エリート的な火星社会」と「環境破壊と人口増加の脅威にさらされ、とにかく今日明日生きのびることを模索する地球社会」の対比は、現代世界のエリート的な人々と、それに対して否をつきつける人々の対比を想起させる。前二作は火星側からだけの視点で描かれていたが、本書には両者の視点が織り込まれていて、単純に火星独立万歳というわけではない。火星社会には、環境保護主義者(レッズ)が存在しているが、彼らのうちの過激派は完全なテロリストであるし、一方の環境改変主義者(グリーンズ)にみられるエリート主義的な傲慢さも強調されている。
最終的に本書で示されている興味深いビジョンは、恒星間まで含んだ広大な宇宙空間に、多様な価値観をもち時としてお互いに相容れないような様々な人類のコミュニティが拡大放散していくことである。