古代ローマにタイムトラベル:「古代ローマ旅行ガイド 一日5デナリで行く」フィリップ・マティザック

古代ローマ旅行ガイド (ちくま学芸文庫)

古代ローマ旅行ガイド (ちくま学芸文庫)

現代のローマに残されている古代ローマ遺跡の案内ではなく、3世紀初めのローマを実際に訪れ、滞在して観光を楽しむための、本物の旅行ガイドである。1日5デナリで行けるとのことである。当時の兵士の給料が年収450デナリだったそうだから、5千円から5万円といったところか。普通の旅行ガイドブックを読む感じで気軽に読めるが、著者はプロの歴史学者であり、読み進むと古代ローマの社会や文化について自然によく理解できるようになっている。

地中海各地からローマを訪問するために、もっとも高速かつ効率的な輸送手段は船である。当時、ローマと並ぶ大都市であったエジプトのアレクサンドリアからローマの外港プテオリまで10日弱の船旅である。現代の航空機には及ぶべくもないが、1600kmを10日弱ならそれほど悪くない感じだ。アレクサンドリアとプテオリの間は、100-200人の旅客と350トンの穀物を運ぶ大型船が運航していたそうなので、想像以上に当時の地中海は、人とモノの行き来が頻繁であったに違いない。

豊富な図版から、当時のローマの様子を手にとるように理解することができる。大街道、上下水道、闘技場、競技場、神殿、浴場、集合住宅など、モダンにさえ見える感じで現代とあまり違わない建築物であるのがたいへん印象的だ。2000年近くも前なのに100万都市であったのだ。首都ローマに富を集中させるための軍事と造作の結果である。一方で、現代と決定的に異なるのが医療であり、当時は抗生物質も予防接種もなかったので、いったん病気になったり怪我をしたりすると死に至る確率がものすごく高い。

本物の旅行ガイドなので、「役に立つ」ラテン語会話集も付録に付けられていて楽しい。「家庭の平和」の項目で、「思い出せない」は、’Non possum reminisci’ だそうである。確かに役立ちそうだ。