律令国家の破綻:「武士の起源を解きあかす」桃崎有一郎

最初の武士とは何者であり、どこで誕生したのか。手元にある教科書的な本、「日本社会の歴史(中)」(網野善彦)では、平将門藤原純友の乱に関連して、「これらの人たち(最初の武士にあたる人々、筆者註)は国司として現地に下り、そのまま土着した豪族であり」(p15)とされている。ということは、武士の起源は京都から地方に下った貴族である、ということになる。一方で、古くからの説として「富裕な農民、中でも年貢の納入を請け負う名主が....一族で武装し、武士になった」(本書p21)という考え方もある。本書は、奈良時代から平安時代にかけての社会情勢を詳しくみることで、武士の起源を明快に解きあかしている。推理小説を読むように、ゆっくりと答えに進む足どりを楽しむ感じがよい。

本書を一読して強く印象づけられるのが、7世紀に登場した律令国家日本の体制が、何と矛盾に満ちたものであったかということだ。国民一人一人を把握して戸籍を作り、一人一人に課税し、税を都まで納めさせるというのは、現代の日本であればいざ知らず、この時代では到底無理である。このようなわけで、税はなかなか集まらないうえに、軍事(東北遠征)と造作(新都造営)に励むとなれば、体制が破綻してしまうのは当たり前である。

本書によれば、武士はまさに古代律令国家の破綻の中から生まれた存在である。したがって最初の武士たちは古代からのつながりを濃厚に残しており、本書ではそのあたりが詳しく書かれていて興味深い。武士の存在を認識した国家は、彼らを正式に「武士」と名づけ国制に組み込むことになる。こうして生まれた武士たちは、夷荻を討伐し王権を守護する役割を担って、次の時代の主役(のひとり)となっていくのである。