火星でひとりぼっち: 「火星の人」 アンディ・ウィアー

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星。今世紀中には人類が到達するだろう惑星。大気圧は地球大気圧の1%以下。しかもその95%は二酸化炭素。気温は摂氏マイナス63度。手近に使える水は無い。時折、大型台風並みの50m毎秒ほどの風速で吹き荒れる砂嵐。利用できるエネルギーは弱い太陽光だけ。地球との通信手段は壊れてしまった。そんなところに、たった一人でとりのこされたらどんなふうにして生きのびたらいいだろう。シンプルな物語であるが、ページをめくるのがもどかしいほど話の展開に引きずりこまれてしまう。火星の課す過酷な自然条件だけで、これほど話が面白くなるとは!主人公が、基本的には楽観的で、ユーモアたっぷりの人物というのも良い。

主人公は、生きのびるために、周りの環境の様子を測り、対策を立てて試し、また測って対策を修正するという行為をいやというほど繰り返す。うまく行くこともあれば、予想もしていなかったトラブルに見舞われることもあるけれど、とにかくあきらめずに繰り返す。これこそまさに科学技術の営みである。<リスクと決定と責任>に関わる興味深い局面も出てくるが、この問題に対する作者の答はとても明快である。

この本を原作として年内にも公開が予定されているという映画を、楽しみに待ちたい。