- 作者: キム・スタンリーロビンスン,Kim Stanley Robinson,大島豊
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1998/08/26
- メディア: 文庫
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「星を変えることは破壊することにならないよ。その過去を読みとるのは難しくなるかもしれない。けれど、その美しさはなくなりはしない。湖や森や氷河があったとしても、どうしてそれが火星の美しさを減らすことになるだろう。そうはならないと、ぼくは思う。むしろ美しさは増すだけだと思う。生命が加わるからだ。あらゆるシステムの中で最も美しいものが加わるのだ。しかも、どんな生命にもタルシスを崩すことはできないし、マリネリスを埋めることもできない。火星は常に火星でありつづけるはずだよ。地球とは違った、より寒く、より荒々しい星でありつづけるはずだ。でもここが火星であり、同時にわれわれのものであることは可能なんだ。きっとそうなるはずだ。人間の精神についてはこういうことが言える。人間になしうることであれば、人間はそれをなす。ぼくらには火星を変身させて、聖堂を築くように人類と宇宙の両方への記念碑として火星を築くことができるんだ。」(上巻、p306-307)
別の登場人物ジョンは、アンに対してこれを敷衍してさらに
「ぼくらの子供たちがどんなものを美しいと思うようになるか、誰にわかるんだい。その感覚は子供たちが知っていることを基礎として生まれるんだし、子供たちが知ることになるのはここだけだ。つまりぼくらは惑星を緑化(テラフォーミング)する。けれど惑星もぼくらを火星化(アレオフォーミング)するんだ。」(上巻、p435)
と言う。人間と自然の関係は一方的なものではなく、常に相互作用しながら変わっていく。火星のテラフォーミングは人間のアレオフォーミングを伴う。生命の無い火星に生命が加わり、その生命は火星生命となる。それはとても魅惑的な考えだ。
と、ここまで書いているうちに、NASAが「火星表面には液体の水が存在していることを発見した」というニュースが入ってきた。もしかしたら火星には独自の生命が存在しているかもしれない。その場合、テラフォーミングは許されるだろうか?