都市形成のシミュレーションをしてみよう(2):「自己組織化の経済学」 ポール・クルーグマン

自己組織化の経済学―経済秩序はいかに創発するか (ちくま学芸文庫)

自己組織化の経済学―経済秩序はいかに創発するか (ちくま学芸文庫)

本書で述べられているエッジシティーモデルを使って、都市形成のシミュレーションを、2次元の円内領域でやってみた。

「求心力」の及ぶ範囲が広い場合(r1=1.4,r2=0.2)の最終状態。円周境界上にエッジシティー(周辺都市)が形成される。パラメータはすべての場所で一定なのに、中心部ではなく周縁部にエッジシティーが形成されることが興味深い。

「求心力」の及ぶ範囲が狭い場合(r1=2.8,r2=0.4)の最終状態。エッジシティーの数が多くなる。

「求心力」の大きさAを
   A(x,y)=A0 x exp(-2.8 x D) (Dは中心からの距離) (1)
の式によって、場所の関数として設定し、中心で大きくしてみた場合。
A0=4.7。「求心力」の及ぶ範囲が狭い場合(r1=2.8,r2=0.4)の最終状態。エッジシティーが形成される。

A0=4.8。A0をちょっと大きくすると、エッジシティーは崩壊し、中心に収斂する。劇的な変化である。これは、クルーグマンも本書で「ゆらぎからスパイクへ」という変化として説明しているように、企業数を一定としている、不自然ともいえる仮定が関係している。

エッジシティーが崩壊する直前。中心都市と、エッジシティーが並存している。

中心部に求心力を与えても、エッジシティーが形成されるのが面白い。現実には常にモデルのパラメータは時間的空間的に変化し、均衡に至ることはないだろうから、中心都市とエッジシティーが並存する過渡状態が出現していても決しておかしくないだろう。こうした関係は、東京中心部と、その郊外に広がる現実のエッジシティー達(例えば、立川、八王子、三鷹、等々)との関係になぞらえることができるかもしれない。

一方で、東京23区内を考えると、中心部(皇居?)には商業的な求心力はさほどないだろうから、中心部の集積は弱く、山手線沿線に池袋、新宿、渋谷といった集積がエッジシティーとして現れていると考えられるかもしれない。東京23区内の人口密度が図になっていないかと探してみたら、
  http://blogs.yahoo.co.jp/shohei_tokyo_1980/32287741.html
に素晴らしいイメージがあった。

ここでとりあげたエッジシティーモデルに、クルーグマンのように「ミクロ的基礎付け」を与え、地価、輸送費、賃金、といった現実に観察できるパラメータによって動学モデルを作り、現実のデータからパラメータを推定し動学モデルを動かして再現性を検証できたりしたら、さぞかし興味深いだろうと思う。企業数一定という仮定もはずして、経済成長に伴う企業数の増減もとりいれたら、さらに面白くなるだろう。こういったあたりが、経済学の醍醐味なのだろうか。