経済成長2%仮説:「経済成長って何で必要なんだろう?」 飯田泰之、岡田靖ほか

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

2009年に出版された本書は、前年のリーマンショックの影響もあって景気が悪化し、雇用や貧困の問題が深刻化するなかで、そうした問題に対して経済成長がもつ重要性を、経済学者飯田泰之氏を中心とする対談という形で、様々な角度から論じている。最も興味深く読んだのは、経済成長そのものについて論じている第一章だ。戦前戦後の日本経済と経済成長について、エコノミスト岡田靖氏が独特の面白い切り口で解説している。そこで氏が言う「経済成長2%仮説」が面白い。経済成長は、国内総生産GDP)が年々拡大していくことであり、国内総生産とは、国内で新たに生産された付加価値の総和である。付加価値の生産活動とは、ヒトと資源と設備を使ってモノやサービスを作り出すことだ。技術の進歩によって、ヒトの働き方が効率的になり、設備が更新されるとともに、前の年に比べて2-2.5%程度の割合で多くのモノやサービスが作り出せるようになる。これが経済成長の実態であり、もし成長せず生産額が変わらないとすれば、毎年2-2.5%づつヒトや設備が不要になっていくことになる。

アジア太平洋戦争が終わり、戦後復興が一段落した1955年以降の日本の経済成長の様子は下図でわかる(本書p58の図; 下図は同様なデータをもちいて2010年まで延長したもの)。1959-1969年は毎年10%程度の成長が生じた高度成長期である。1973年以降は成長の速度が落ちるが、それでも平均すれば2-2.5%程度は成長し続けている。高度成長は、ヒトが農村部から都市部に大幅に移動し、設備が先進国の水準にキャッチアップする過程で実現された。高度成長は、ヒトの投入と設備の進歩が一段落し、資源価格が上昇すること(石油危機)で終了する。それ以降も、1997年までは2.5%以上成長できていたが、1997年以降は本格的な経済停滞(平成大停滞)が始まる。本書の図では、2.5%成長曲線しか記載されていないが、2%成長曲線をかき加えてみると、なにやら1980年代後半から1990年代前半にかけてのバブル-バブル崩壊期が異常で、2000年以降、とくに2001-2006年の小泉内閣時代に「通常」の2%水準に戻ったようにもみえるのが不思議である。2-2.5%とひとくちに言うが、0.5%違うだけでもかなり違ってみえる。2%を前提とすれば、平成大停滞に対する評価も、国際的な経済危機が生じた1997年と2008年前後だけが異常であり、あとは安定成長期間であるとみえるかもしれない。2.5%を前提にすると、1997年以降はずっと停滞期である。

現在生じている雇用や貧困の問題に対して、飯田泰之氏は、「非正規労働者の景気を一回噴かせてやらなきゃいけない」(p135)と言う。「希望は、インフレ」(p137; 芹沢一也氏)であり、そのためのインフレターゲットであると。下図は、1955年以降の、インフレ率と実質経済成長率の関係をみたものだ。インフレ率を調整した実質経済成長率でみても、高いインフレ率の年に高い実質成長率が実現しているようにみえる。実際、高度成長期は5%前後のインフレ率が続いていた。一方で、狂乱物価の際には成長率が低下している。高すぎるインフレ率はもちろん良くない。

そこで、インフレ率と実質経済成長率がともに落ち着いた、1980年以降の図を改めて描いても(下図)、やはりインフレ率と実質経済成長率は関係があるようにみえる。とくにインフレ率が2%以上だと、実質経済成長率が0%以下に落ち込むことはなかった。少なくとも、実質経済成長率を安定させるためには、インフレ率は2%程度にしておくことが望ましく、現在の日本政府と日本銀行は、インフレ目標2%を約束している。ただ、不思議なのは、最近の経済財政諮問会議で、実質2%、名目3%の経済成長率を前提とするとされていることだ。実質2%という数字は、さきほどの2%仮説からみて低めではあるがまあ良しとして、名目3%というのは、インフレ目標2%に矛盾している。名目4%を掲げなければおかしい。このあたりは、消費税率の引き上げをめぐる議論にも関係しているのだろうか?

本書で飯田氏は、「2010年の後半か2011年の頭くらい、オバマ政権のちょうど真ん中辺でアメリカの景気回復が始まる。ここで今度こそ本当のラストチャンスが来る。ここで適切な金融政策で景気を支えないと、景気は3〜4年でアップ&ダウンしますから、第一世代が40越えをしてしまう。さらに、不安定雇用のまま子どもを生んでいたりすると、格差の遺伝がはじまる。そうなると、もう小手先ではどうにもならない問題に変わっていってしまう。」(p152)と、危機感をあらわにする。本書刊行以来4年がたった2013年現在、飯田氏の予言が実現し、遅まきながらようやく適切な金融政策が実施され、景気を支えるという状況が到来した。いまがまさに正念場である。