- 作者: 倉山満
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2013/06/01
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一読して、複雑で素人にはなかなかわかりにくい日中関係の近現代史をわかりやすく解説してくれていると感じた。戦前の日本は、ファシズム(一国一党)どころか軍国主義すらまともに実現できず、国策をまとめられなくなって、対外関係、とくに対中関係を制御しきれなくなって破滅した、という指摘は興味深い。こうした指摘は、根拠となる参考文献が明示されているわけではないが、他の歴史家が書いている通史の記述とかなり一致しているようにみえる。著者は相当に関係文献を読み込み、とくに近年の歴史研究の成果をふまえたうえで、十分な自信をもって記述しているのだろう。例えば、
満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉 (岩波新書)
- 作者: 加藤陽子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/06/20
- メディア: 新書
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また、満州事変後のリットン調査団報告書についても、上記の「満州事変から日中戦争へ」では、「リットン報告書はイギリス流の現実主義で書かれた部分も多く、日本の経済的利益の擁護への配慮も十分なされていた」(p148)とあり、このあたりも本書の主張と一致している。ただ同書では同時に、リットン報告書が、日本が満州における死活的権益とみなしていた鉄道併行線の禁止と、鉄道守備兵については否定的であり、日本がそれについて強く反発していたとする。そして、こうした日本の特殊権益は、実は条約や協定の本文ではなく、それに関して日中で議論した議事録に依ってはじめて確認できる微妙なものであり、英米にそれらを認めさせることは容易ではなかったことを示している。いずれにしても両書は、当時の日本外交が対外宣伝で中国の各勢力に遅れをとったとする点で一致している。
本書による、定型化した中国政治史の変動過程は、中国が始皇帝による統一以来、「中華帝国」(山川世界史)
- 作者: 「世界の歴史」編集委員会
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 2009/09/01
- メディア: 単行本
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文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,倉骨彰
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2012/02/02
- メディア: 文庫
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そして中国では、様々な技術の発展が「中華帝国」の恣意的な支配のもとで妨げられることが多々あり、ヨーロッパでは小国の分立が技術的競争を促し、最終的に産業革命をひきおこすことになったとしている。本書が述べる、中国社会におけるある種の困難、と共通したところのある主張だと思う。
本書はやや過激な物言いを用いているが、ごく真っ当なことを述べていると思う。中国の現体制が不安定になり再び動乱期に突入しているのかどうかはわからないが、もしそうだとすれば、日本が動乱期の中国とつきあうにあたり、本書がいう「ノータッチというタッチ」という戦略がとれるかどうかが、今後きわめて重要だということになる。