地球環境を支配する「全地球ダイナミクス」:「生命と地球の歴史」 丸山茂徳・磯崎行雄

生命と地球の歴史 (岩波新書)

生命と地球の歴史 (岩波新書)

いうまでもなく地球環境は、いま目の前に見えている地上や海の表面だけではなく、中心核まで含めた地球全体から成っている。自分自身は今まで地球のごく表面にしか関心がなかったが、本書を読んで、地球表面の環境は地球内部の状態によっておおよそ決まってしまっているということがわかる。少なくとも億年の時間スケールでは。

45.5億年前といわれる地球誕生の後、地球は全体として徐々に冷えてきている。その途中で、海洋の形成と生命の誕生(40億年前)、強い地球磁場の形成(27億年前)、超大陸の形成(19億年前)、海水のマントルへの注入(7.5-5.5億年前)、古生代中生代境界付近での生物大絶滅(2.5億年前)という大きな出来事が起きているが、すべて地球内部環境の変動、すなわち「全地球ダイナミクス」が原因で起きているのである。「全地球ダイナミクス」を駆動する最も重要なメカニズムは、「スーパープルーム」と呼ばれる、マントルの非定常かつ大規模な対流活動だ(プルームテクトニクス)。

特に、海水のマントルの注入によって海水準が下がり、陸地が増えたためにそこからの堆積物に酸化していない有機物が蓄積されるとともに大気中の酸素が増えてオゾン層が作られ、堆積物から放出される塩分によって海水の塩分が増えた、という過程は大変面白い。紫外線をさえぎるオゾン層の増加によって陸上での植物が生存可能となり、「カンブリア爆発」とも呼ばれる海中生物の著しい多様化の後、高塩分をさけて淡水の河川に進入した動物がやがて陸地に上陸する。こうした生物進化の大きな画期が、「全地球ダイナミクス」によって生じた。同じ時期に、全地球凍結状態が生じ、解消していたということも興味深い。億年の時間スケールではこのようにして「海洋・生命・地球の統一的理解」が可能になるのだ。

本書の出版(1998年)後、約20年が過ぎたが、「プルームテクトニクス」といった当時新しかった理解の枠組は、地球科学分野でかなり認められているようだ。そして、太陽系以外の惑星系でも地球と同様に海を持つ地球型惑星が発見されつつある。そう遠くない将来、こうした系外惑星での生命存在も報告されるだろう。本書で示された「全地球ダイナミクス」は、汎銀河スケールで普遍性をもつのかもしれない。