数学という言葉を使いこなす:「微積分の意味」森毅

 

微積分の意味

微積分の意味

  • 作者:森 毅
  • メディア: 単行本
 

微積分は、ヨーロッパ科学がギリシャの科学との決定的な違いとして<変化の法則>を編み出す際の核心的な概念となった、と本書は言う(p10)。本書は、微積分のイメージをいろいろな角度から論じていて読むのが楽しい。イメージを目に見えるようにするための図が多く載せられていてありがたい。

長い間、微積分を道具として使ってきたが、本書では今まで意識してこなかったことがいくつも書かれていて面白かった。たとえば、ふつう「接線の傾き」として微分係数をイメージすることが多いが、水を蓄積していく別のイメージが紹介されていてわかりやすい。水を入れる蛇口をどんどんゆるめていくと、水がたまる速度は加速度により変化していくが、蛇口を固定した瞬間の速度がその時点の微分係数になる。微分係数は極限なのでその実在がイメージしにくいが、このイメージでは確かに実在する量であることが実感できる。同時に、蓄積される水量は速度の積分量として表わされる。また、中学、高校の数学で、一次関数、二次関数を微積分に至る前提として学ぶことがとても自然であることがわかる。

本書で一番面白いと感じたところは、対数、指数、三角関数微積分の枠組みによってひとまとめに扱う7-11章である。7章のはじめで、1-9までの手作り対数表をつくりだすくだりは著者の真骨頂が出ていて最高だ。それは数学を、ものごとをうまく表現する言葉として使いこなすことである。こうした数学の言葉を覚えると、オイラーの公式 e^{it}=cost+ i sint が、 \frac{du}{dt}=iu \quad u(0)=1 という微分方程式の解としてきわめて自然かつ美しい表現として納得できるのだ。

最後に、印象深い文章を書きとめておきたい。

このことは、<相互作用>を含む系では、かなり典型的なことである。いわば<自律的発展>(または減衰)としての指数関数と、<相互転換>としての三角関数とが入りくんで現れるのである。それゆえに、<勢いに乗ずる>ことと<山あり谷あり>とが、この現実の世界をイロハガルタ風に語ることとなっているのだ。

そして、複素数の世界で、それが単一の<形式>となっているのは、この現実の世界にたいして象徴的な意味を持っているではないか。」(p147)

 これは、 m\frac{d^2 x}{d^2 t}+p \frac{dx}{dt}+qx=0という微分方程式の解を、これ以上無いという面白さで説明した文章である。