「宝島」の夢:「80's エイティーズ ある80年代の物語」橘玲

 

1985年、友達にはじめて「 別冊宝島」のある号を見せてもらったときは、とても新鮮な感じがした。小阪修平氏らによる明快でわかりやすい文章は、当時の西欧「現代思想」が西欧近代の伝統的な人間観を解体しゼロから考え直そうとしている、と強く訴えかけてきた。本書を読み、「知識を道具に」という斬新なコンセプトで「別冊宝島」を始めた編集者が石井慎二氏だということを知った。

本書は、石井氏に誘われ1985年から1995年にかけて「別冊宝島」や「宝島30」の編集を手がけた元編集者による当時の回想記だ。「出版業がいちばん勢いがあった時代」(本書、p141)で「本はつくれば売れるもの」(同)という時代の雰囲気がよく伝わってくる。たとえ今は忙しいわりに収入が少なくても、未来には確実に市場が拡大し収入が増えると予想できた時代である。

本書の終わりは、1995年、阪神淡路大震災オウム真理教事件が起こった年である。著者はこれ以降編集者をやめ、作家になる道を選んでいく。やがて今日に至るインターネットとデフレ不況の時代となり、出版業界は勢いを失う。1995年は、個人的にもそれまでの楽観的な人生観が変わり自分の進路を変更するきっかけとなった年である。「気づかないうちに世界がまるごと変わってしまったー」(p213)という著者の実感に共感する。